給湯室でキスをする
土曜の16:00。
朝から、いや昨夜からずっと口論を続けていた私と社長だったが、給湯室で抱きしめられ、一瞬のキスをした。
体を離す際に「今日のは特別に少しだけな」と自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。
ここから記録。
わたしにはどうしても相性が良くない部下がいる。還暦過ぎの管理職上がりの頑固な部下。
その部下が、わたしが関わっているプロジェクトチームに加わることが決定した。
一度だけ同じ打ち合わせに同席したが、その後、私はプロジェクトから外された。
社長からは「君がチームにいると、彼のプライドが傷つく。今まで君が作った資料も(出来が良すぎて彼をイラつかせるため)存在しなかったことにして、彼に一から作らせる。今日の2人のやり取りも見ていてヒヤヒヤする。もう少し謙虚にゆっくりとした口調で話すべきだ」
もうカミナリが落ちたかのように衝撃だった。
彼は前職で地位のあるポジションだったせいもあり、入社当時から歳下の女のわたしが上司であることがそもそも気にくわない。
一対一で話しても周囲が助言しても、社長が直々に言っても歩み寄ろうとせず、わたしを拒絶し隙あらば粗探しばかりする。
わたしは個人的な感情を優先したくないので、必死に堪える。彼を気分良く動かすために、極限のストレスを抱えながら低姿勢でアプローチする。
昨日の打ち合わせでは、彼から新システムと既存システムのとある連動性について、とある疑問があがり、システム会社の方も社内スタッフの誰も答えられない中、わたしが彼に説明した。それはもう丁寧に優しい口調に気をつけて、相手をたてながら。
しかし、彼はまたわたしにムカつき、プライドが傷ついたようだ。
何故、彼のプライドを守るためにわたしが抜けるのか?作成済みの資料さえも無かったことにする?
社長のお考えが全く理解できない、と言った。
これ以上の敬い方はわたしには出来ない。
悲しさと悔しさとが混ざり合い、社長の指示に素直に従えない。
結局、翌日も夕方まで口論が続いた。
途中、わたしの援護に入ってくれたスタッフもいたくらい。
社長の真意がわかったころ、もう気持ちがヘトヘトで、自信ややる気は皆無に近かった。
社長の真意は、わたしに無理をさせたくない、ストレスを与えたくない、守りたい、その結果部下と関わらなくても済むようにしたかったとのことだった。
あまりにもわかりづらい。
仕事の進め方としてはわたしが嫌うやり方だが、愛する人が苦しんでいる姿を見たくないという、その気持ちはとても嬉しかった。
会話を繰り返すうち、なんとか理解し納得したわたし。社長が立ち上がりわたしのデスク近くまで来て「ちょっとこっち来い」と、給湯室に連れて行かれた。
休日出勤の土曜の夕暮れのキスだった。
結局、何時間にも及ぶ言い合いは、一瞬のキスでほぐれてしまうのだ。
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